魯粛の城 |
魯粛は孫権から、軍糧を蓄えるための城を築くように、との命を受け、江夏の長羨、蒲首山の麓に場所を定めた。 付近の住民から男手を募り、数百人の工夫を雇って作業にあたらせた。 |
| 孫権からは、100日以内に完成させよ、との命令を受けていたので 魯粛は作業にあたり、自分の甥を最高監督官に任じ、昼も夜もなく突貫工事で作業を進めた。 |
| ところが、一月たっても一向に工事が進まないので、魯粛は焦り、監督官を増員させて作業を急がせた。 だが、一向に工事が進む気配がなかった。 魯粛はなぜそんなに工事が進まないのか、気にかかり、忙しい軍務の最中自分の目で確かめるために工事現場まで出向いていった。 |
工事現場についてみると、 工夫たちが地べたに座りこみ、 一向に動こうとしない様子で あった。 そして、監督官が叩いたり 怒鳴ったりしても一向に効き目 がなかった。 魯粛は輪になって座っている 工夫のうちの一人に話しかけ、 「どうして働かないのか」 と訊いた。 すると工夫の青年は答えた。 「もうとっくに昼も過ぎたというのに、 飯を食いに家に帰してもらえもしない。 こんなことで働けるものか」 魯粛はそれに対し、 「昼飯は家の者に届けさせるように 言い渡してあるはずではないか」と言う。 すると今度は別の年老いた工夫が言った。 「こんなろくでも無いヤツらを監督にさせておいて、女たちが届けになど来れるものか」 魯粛はこの話を詳しく聞いた。 実は監督官として来ている武将たちが、 昼飯を届けにきた女のうち見た目の優れた者を手篭めにしてしまったのだという。 それ以来、昼飯を届けに来るはずの妻や娘たちは誰一人として来なくなってしまったのだ。 工夫たちにはこの人道にはずれた武将たちに対抗する術もない。 ただ、こうしてひがな1日座って過ごすことで抗議するしかなかったのだ。 魯粛はなんとも情けない気持ちでいっぱいになり、ともかくも工夫たちを飯を食わせるために家に帰した。 そして残された工具を持って、自ら土木作業を始めた。 |
| これを見ていた武将や士官たちは慌てて手伝い始めた。 作業をする傍ら、士官らに、一体だれが土地の女たちに手をだしたのかを探り始めた。 口篭もる者もいれば目を逸らす者もいる。 |
| 魯粛は彼らにこう言った。 「誰かが煽ったか、指図したはずだ。 その者のみを罰する事にするゆえ、その 者の名を言いなさい。言った者は罪を許そう」 すると、士官たちの間から一人の名前 があがった。 魯粛が責任者として派遣した自分の 甥の名であった。 魯粛はその日の午後、昼から戻ってきた 工夫たちの目の前で、甥を呼びつけ、 罪を働いたかどで打ち首にした。 それからというもの、工夫たちは 時間どおりに届けられる弁当を食べ、 士官達も土木作業に加わって作業は 順調に進んで行った。 その結果、99日目に城は完成した。 喜んだ孫権は自ら美酒とご馳走を持ってねぎらいにやってきた。 だが、魯粛はまだ1箇所、残されているところがあるので、と丁重に断った。 西の門の石橋の脚の石が1箇所はまっていないのだという。 孫権は魯粛についてその橋の前に立った。 それを見て、 孫権は魯粛の実直で誠実さを目の当たりにしいたく感動した。 また、士官から彼の甥の件を聞くとさらにこう言った。 「皆がこの魯粛のように誠実に職務をこなし、民のために心をくだくのであれば 天下は太平の世となるであろう」 この言葉を受けて人々は声を上げ、出来あがったこの城を「太平城」と呼び合った。 そのとき、一陣の風が吹き付け、蒲首山から大きな石が飛んできて、人々の目の前で その石は残っていた橋脚にちょうどすっぽりとはまった。 これで城は完成したのである。 驚いた人々は口々に城の名を「太平城」そして「魯粛城」と呼び合い、たたえあった。 (終) |